株式会社クロスメディア・マーケティング

コンテンツマーケティング

知名度とは何か?名前記憶から特徴記憶へ

営業会議の準備をしていた時のことです。
ふと以前見かけたサービスを思い出しました。

「確か、営業活動を自動で記録してくれるサービスがあったな」
「商談内容をAIが要約してくれるやつ」

便利そうだと思った記憶があります。しかし、肝心のサービス名が思い出せません。

そこでAIに聞いてみます。

「営業活動を自動記録して、商談内容をAIが要約してくれるサービスを教えて」

すると候補が表示されました。その中の一つを見て、「あっ、これだ」と思い出します。そしてサービスサイトを訪れ、資料をダウンロードし、比較検討を始めました。

似たようなことは日常生活でも起きています。

休日。家族と出かける計画を立てている時です。

「そういえば前にSNSで見たよね」
「絵本みたいなパンケーキのお店」
「子供が喜びそうだったやつ」

そんな会話になります。しかし店名は思い出せません。
そこで検索します。

「絵本みたいなパンケーキ 子供」

すると候補が表示されます。
その中から、「あっ、ここだ」と目的のお店を見つけます。予約をして、実際に訪れます。

私たちは本当に名前を記憶して行動しているのでしょうか。

第1章:名前は忘れた。でも特徴は覚えている

先ほどの二つの例を振り返ってみましょう。

営業支援サービスの例でも。パンケーキ店の例でも。思い出していたのは名前ではありませんでした。

・営業活動を自動で記録してくれる
・AIが商談内容を要約してくれる
・絵本みたいなパンケーキ
・子供が喜びそう

といった自分が興味ある特徴です。

名前は忘れていました。しかし特徴は覚えていました。そして、その特徴を手掛かりに検索し、再び目的のサービスやお店にたどり着いたのです。

実は同じようなことは、私たちの周りで頻繁に起きています。

例えば、

「採用に強い会社」は覚えている。しかし会社名は覚えていない。

「BtoBマーケティングに詳しい人」は覚えている。しかし名前は覚えていない。

「中小企業のDX支援に強い会社」は覚えている。しかし社名は覚えていない。

そんな経験は珍しくありません。 むしろ現代では当たり前になっています。
もちろん最終的には会社名も必要になります。

・比較検討する時
・社内で共有する時
・契約する時

名前は重要です。

しかし、その前の段階ではどうでしょうか。私たちはまず、「誰か」を思い出しているのではありません。

「何ができるか」
「どんな特徴があるか」
「自分の課題を解決してくれそうか」

を思い出しています。

そして、その特徴を手掛かりに検索します。
AIに聞きます。SNSで探します。すると忘れていた名前が見つかります。

多くの人は、知名度とは名前を覚えてもらうことだと思っています。しかし実際の行動を観察すると、私たちは既に名前ではなく特徴から探しているのです。

では、なぜこんなことが起きるのでしょうか。
なぜ私たちは名前を覚えなくなったのでしょうか。

その理由は、スマホや検索エンジン、そしてAIの普及によって、人間の「記憶の役割」そのものが変わったからです。

第2章:人間は記憶をスマホやAIに外部委託した

ここで少し大胆なことを言います。
私は、現代の知名度を考える上で最も大きな変化は、人間が記憶をスマホやAIに外部委託したこと
だと考えています。

そもそも人間は名前を覚えるのが苦手です

少し考えてみてください。私たちは、人の名前を覚えるのが得意でしょうか。
会社名はどうでしょう。
商品名はどうでしょう。

おそらく、多くの人は違うはずです。

仕事で初めて会った人。
名刺交換した直後は覚えています。

しかし一週間もすると、「あの人、何という名前だったかな」となってしまいます。

テレビCMも同じです。
企業は何度も会社名を繰り返します。一度は耳に残ります。

しかし、多くは数日後には忘れています。

選挙でも候補者は自分の名前を何度も連呼します。
投票日までは覚えていても、その後しばらくすると忘れてしまう人も少なくありません。

これは記憶力が悪いからではありません。人間は、意味のない名前だけを記憶し続けるのが苦手なのです。そして、苦労して覚えたとしても、意味が伴わなければ、すぐに忘れてしまいます。

これまでのマーケティングは人の忘却という難物と戦ってきたのです。

かつての広告は、人の記憶と忘却を前提に設計されていました。
テレビ広告では、出稿を止めれば知名度は徐々に下がっていきます。忘却率を考慮しながら、継続的に接触量を増やし、記憶を維持する必要がありました。

知名度とは、ある意味で、

「記憶量から忘却量を差し引いたもの」
「知名度=記憶量-忘却量」

だったのです。
だから企業は、大量の広告を出し、何度も社名を繰り返し、忘れられないよう努力してきました。
言い換えれば、これまでのマーケティングは、忘却と戦うマーケティングだったとも言えます。

しかし、マーケティング自体が変わった

一方、現在のデジタル広告は少し違います。

広告を見る。
クリックする。
資料請求する。
購入する。

そこには、「覚えて、後で思い出す」というプロセスがありません。
いわゆるダイレクトレスポンス広告では、AIDMAではなくAIDAが基本になります。

Attention。
Interest。
Desire。
Action。

Memoryが存在しません。 忘れる前に行動してもらう。

マーケティング自体が、人の記憶に頼らない方向へ進化してきたのです。

そしてAI時代、人間は記憶を外部化した

さらに今、その流れは大きく加速しています。

電話番号はスマホが覚えています。
地図はGoogleマップが覚えています。
店名は検索エンジンが覚えています。
会社名やサービス名はAIが教えてくれます。

つまり、スマホとAIは、人間の新しい記憶装置になったのです。

私はこの変化を、「記憶の外部化」と呼んでいます。

私たちは以前ほど、名前を覚える必要がなくなりました。忘れても、再び見つけられるからです。

「営業活動を自動記録してくれるサービス」
という特徴を覚えていれば、サービス名を忘れてもAIが教えてくれます。
「絵本みたいなパンケーキのお店」
という特徴を覚えていれば、店名を忘れても検索すれば見つかります。

もちろん、

比較検討する時。
社内で共有する時。
契約する時。

名前は今も重要です。しかし入口では違います。

私たちは、名前を覚えているから行動するのではありません。
特徴を覚えているから行動しているのです。
人間は「忘れる」という弱点から解放されたわけではありません。

しかし、その弱点をスマホや検索エンジン、AIが補ってくれるようになりました。
だからこそ私たちは、名前を記憶することよりも、

「何ができるのか」
「どんな価値があるのか」

という特徴を記憶することに集中できるようになったのです。

自分が興味あること、自分が得する話、自分にとって価値がある特徴を記憶するのは苦ではありません。 それは自分にとってメリットがあり嬉しいことだからです。

第3章:知名度の主役は、名前から特徴へ移った

ここまでの話を整理してみましょう。

かつて人々は、名前を覚え、思い出し、行動していました。
だから企業は、名前を忘れられないよう、広告を出し続ける必要がありました。

しかし今は違います。

忘れても検索できます。
AIに聞けます。 再び見つけられます。

つまり、人間の記憶そのものに頼らなくても、行動できるようになったのです。
その結果、私たちが最初に記憶するものも変わりました。

会社名ではありません。商品名でもありません。

「採用に強い会社」
「企業出版の会社」
「営業を効率化してくれるサービス」

といった、自分にとって意味のある特徴です。

もちろん、最終的には名前も重要です。
比較検討する時~社内で共有する時~契約する時、名前は欠かせません。

しかし入口では、特徴が先で、名前は後です。
知名度が不要になったわけではありません。

ただ、知名度の主役が変わったのです。

名前を覚えてもらうことから、特徴を思い出してもらうことへ。
それが、検索とAIの時代に起きている変化なのではないでしょうか。

第4章:知名度とは何か

ここで改めて最初の問いに戻りたいと思います。

知名度とは何でしょうか。

多くの人は、知名度とは「会社名や商品名を覚えてもらうこと」だと考えています。しかし本記事で見てきたように、現代の人々は必ずしも名前から行動しているわけではありません。

まず特徴を記憶し、必要な時に思い出す。
検索する。
AIに聞く。
そこで初めて名前に出会う。もしくは忘れていた名前に再び出会う。

そんな行動が当たり前になっています。
もしそうだとしたら、知名度を考える時に、名前だけを見て良いはずはありません。

例えば、

会社名は知らない。
しかし、「採用に強い会社」として記憶されている。

サービス名は知らない。
しかし、「営業内容を自動記録してくれるサービス」として記憶されている。

店名は知らない。
しかし、「絵本みたいなパンケーキのお店」として記憶されている。

この状態は、認知されているのでしょうか。それとも認知されていないのでしょうか。

私は、十分に認知されている状態だと思います。

なぜなら、実際に検索され、再発見され、比較され、選ばれる可能性があるからです。もちろん、最終的には名前も必要です。

比較検討の段階では、会社名も商品名も重要になります。

しかし入口ではどうでしょうか。

人々の頭の中に最初に残るのは、名前ではなく特徴です

だから私は、現代の知名度を考える時、名前の記憶だけでは不十分だと思っています。
より強く言えば「知名度=名前の記憶」という固定概念を一度取り払った方が良いでしょう。

「どれだけ名前を覚えているか」も確かに重要ですが、

「どんな特徴を最初に記憶して欲しいのか」 がより重要なのです。

次回は、特徴が記憶されると何が起きるのか。

なぜ知名度が高くても選ばれない会社があり、
逆に知名度がそれほど高くなくても選ばれる会社があるのか。

その理由を、「想起集合」という視点から考えてみたいと思います。

私は、想起集合は3つまでに入らなければ、本当の意味では力を発揮しないと考えています。

監修プロフィール

小川共和

小川事務所
株式会社クロスメディア・マーケティング 顧問

東京大学文学部仏文科卒業後、電通に入社。
本社マーケティング・ソリューション局次長、電通イーマーケティングワン(現電通デジタル)
専務取締役経て小川事務所を設立。 著書に『マーケティングオートメーションに落とせるカス
タマージャーニーの書き方』
『マーケティングオートメーションでおもてなし~ITがマーケティ
ングにしてくれること』
『戦略から始めるエンゲージメントマーケティング』(クロスメディア
・マーケティング)