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『AI推奨戦略は、なぜAIOではなくSTPから始めるのか|STPとは、「〇〇で選ぶなら、自社が一番。なぜなら……」を決めること』
前回は、AI推奨戦略の出発点となるSTPについて解説しました。
市場を捉え、ターゲットを定め、競合との違いを考えることで、「誰に、どのような価値を提供するブランドとして認識されたいのか」を明確にする。その重要性をお伝えしました。
しかし、STPを考えた企業が、次に突き当たる壁があります。
「自社の強みは整理できた。でも、それを裏付ける根拠はあるだろうか?」
例えば、「この分野で選ぶなら、当社が一番」と認識されたいと考えたとします。そう考える理由はあっても、いざ「なぜそう言えるのか」と問われると、答えに困ってしまうかもしれません。
特許があるわけでもない。圧倒的な市場シェアもない。誰もが知るような受賞歴もない。
「そんな立派なエビデンス(根拠・証拠)は、うちにはない。AI推奨戦略は難しそうだ」
そう考えてしまうのも無理はありません。しかし、ここで諦める必要はありません。
エビデンスは、最初から完成された形で存在している必要はないからです。
日々の仕事の中にある小さな工夫。
顧客から繰り返し評価されること。
長年積み重ねてきた経験。
社員が当たり前のように実践している独自の仕事の進め方。
そうした事実の中に、エビデンスの種が隠れている可能性があります。
大切なのは、その種を見つけ、調査や分析によって形にし、検証を重ねながら磨いていくことです。
今回は、エビデンスを「すでに持っているもの」ではなく、「これからつくっていけるもの」と捉え、自社ならではの強みを裏付けるエビデンスの開発方法を考えていきます。
第1章|なぜAI推奨戦略にはエビデンスが必要なのか
STPで決めたポジショニングは、まだ「目指す姿」である
前回の記事では、ポジショニングを考える際に、「〇〇で選ぶなら、当社が一番。なぜなら……」という形で整理することを提案しました。
例えば、ある企業が「顧客の課題解決力で選ぶなら、当社が一番」と認識されたいと考えたとします。
これは、自社が目指すポジショニングです。しかし、その段階では、まだ「そう認識されたい」という願望にすぎません。
競合企業も同じように「課題解決力に強い」と主張しているかもしれません。顧客から見れば、どの会社も似たようなことを言っているように映る可能性があります。
そこで重要になるのが、「なぜなら」の後に続く理由です。
具体的にどのような課題を解決してきたのか。どのような独自の方法を持っているのか。顧客からどのような評価を得ているのか。
こうした事実があれば、ポジショニングの説得力は高まります。
ここで大切なのは、「当社が一番」という主張そのものを証明することが目的ではないという点です。
ポジショニングは、あくまで自社が目指す姿です。
AI推奨戦略で目指すのは、ユーザーがAIに「〇〇に強い会社を教えて」と質問したとき、AIが複数の候補の中から自社を推薦してくれることです。(勿論一番最初に推薦してくれるのが最も望ましい)
そのために必要なのは、AIが「この会社は、こういう理由でおすすめできる」と判断する材料となる、具体的で信頼できる情報です。
エビデンスは、そのための根拠なのです。

生成AIが商品やサービスの比較、企業選びの相談に使われるようになると、AIがさまざまな情報をもとに候補を提示する場面が増えていきます。
例えば、ユーザーがAIに「DXを推進したいが、システム導入後の現場定着まで支援してくれる会社は?」と質問したとします。そのとき、ある会社について「DX支援に強い」「顧客に寄り添う」といった抽象的な説明しか見つからなければ、その会社を推薦する具体的な理由は限られます。
一方、現場定着を支援する独自のプロセス、豊富な支援実績、顧客からの評価、導入後の成果などが確認できればどうでしょうか。
AIにとって、その会社の特徴を理解し、推薦理由を説明するための材料が増えることになります。
もちろん、エビデンスが充実すれば必ずAIに推薦されるわけではありません。AIの回答は、質問内容や利用するモデル、参照できる情報など、さまざまな条件に左右されます。それでも、自社の強みを裏付ける情報が具体的で、信頼できるものであるほど、AIがその価値を理解し、推薦理由として活用できる可能性は高まると考えられます。
AI推奨戦略におけるエビデンスの役割は、自社が「一番」であることを証明することではなく、自社を推薦する理由の説得力を高めることなのです。
エビデンスとは、特許や受賞歴だけではない
エビデンスと聞くと、特許、業界トップの市場シェア、著名な賞の受賞歴などを思い浮かべるかもしれません。もちろん、これらは有力なエビデンスになり得ます。しかし、エビデンスはそれだけではありません。
例えば、次のようなものもエビデンスの候補になります。
・顧客が自社を選んだ理由や、継続して取引している理由
・顧客の課題を解決した具体的な実績
・他社とは異なる独自の業務プロセス
・長年の経験から蓄積された専門知識やノウハウ
・自社で実施した市場調査や業界調査の結果
・継続的な取り組みによって生まれた成果
重要なのは、その事実が、自社の目指すポジショニングをどの程度裏付けているかということです。一つひとつは小さな事実でも、複数のエビデンスが組み合わさることで、説得力が高まることもあります。
「自社にはエビデンスがない」と決めつける前に、まずエビデンスの捉え方を広げてみることが大切です。
第2章|エビデンスは「持っているもの」から「つくっていくもの」へ
エビデンスが思いつかないのは、珍しいことではない
自社のエビデンスを考えようとしても、すぐには思いつかない。これは決して珍しいことではありません。なぜなら、企業の強みは、日常業務の中に埋もれていることが多いからです。
例えば、
営業担当者が顧客の相談に対して、依頼されたことだけでなく、その背景にある課題まで確認している。
技術者が製品の納入後も使い勝手を確かめ、改善を続けている。
顧客対応の担当者が、問い合わせ内容を分析して社内の改善につなげている。
社内では「それくらい普通のこと」と考えられていても、顧客にとっては高く評価する理由になっているかもしれません。
逆に、経営者が強みだと思っていることと、顧客が実際に評価していることが違う場合もあります。
だからこそ、会議室で自社の強みを考えるだけでなく、現場の仕事や顧客の声に目を向ける必要があります。
まず探すのは、完成されたエビデンスではなく「エビデンスの種」
ここで、エビデンスづくりのハードルを少し下げて考えてみましょう。
最初から「競合より優れていることを証明するデータ」を探そうとすると、なかなか見つかりません。しかし、「自社ならではの価値につながっているかもしれない事実」を探すのであれば、どうでしょうか。
・ある顧客から「御社は説明がわかりやすい」と言われた。
・ある社員が「うちは必ず現場を確認してから提案する」と話していた。
・長年続けている独自の品質確認の仕組みがある。
こうした事実は、それだけで競争優位性を証明するものではありません。顧客の評価は個人的な感想かもしれませんし、現場確認は競合他社も行っているかもしれません。
しかし、詳しく調べてみる価値はあります。
「なぜ、わかりやすいと評価されたのか」
「現場確認では具体的に何をしているのか」
「その仕組みによって、どんな成果が生まれているのか」
こうした問いを重ねることで、小さな事実が、ブランドの強みを裏付けるエビデンスへと育つ可能性があります。
私たちは、こうした事実を「エビデンスの種」と呼びたいと思います。
エビデンスの種は、まだ証明された強みではありません。しかし、強みを発見し、検証していくための大切な出発点です。
エビデンスを開発する「探す・形にする・磨く」の3段階
エビデンスづくりは、大きく3つの段階で考えることができます。
第1段階:探す
顧客の声、社員の工夫、過去の実績、独自の取り組みなどを調べ、エビデンスの種を発見します。
第2段階:形にする
発見した種を、調査・分析・数値化・体系化などによって、具体的に説明できる事実へと整理します。
第3段階:磨く
競合との比較、第三者による評価、追加調査、成果の追跡などを通じて、その事実が本当に自社の強みを裏付けているのかを検証し、信頼性を高めます。
この3段階を踏むことで、漠然とした「自社の強み」を、より具体的で説得力のあるエビデンスへと育てていくことができます。
もちろん、すべての種が強力なエビデンスになるわけではありません。調べてみた結果、他社との違いが小さいとわかることもあるでしょう。
しかし、それも重要な発見です。
エビデンスづくりは、自社の優位性を無理に証明する活動ではありません。自社の価値を事実に基づいて理解し、その価値をさらに高めていく活動でもあるのです。

第3章|DX支援コンサルティング会社で考える、エビデンスづくりの実際
では、実際にエビデンスをつくるとは、どのようなことでしょうか。
ここでは、あるDX支援コンサルティング会社を例に、「探す・形にする・磨く」のプロセスを具体的に見ていきましょう。なお、以下はエビデンス開発の考え方を説明するための架空の事例です。
この会社は、STPを検討した結果、次のようなポジショニングを目指すことにしました。
「DXの現場定着・自走化支援で選ぶなら、当社が一番。なぜなら、導入後も顧客に寄り添い、徹底して支援しているから。」
DX支援会社の中には、戦略策定に強い会社もあれば、システム開発・導入を得意とする会社もあります。
この会社は、システムを導入して終わりではなく、顧客の現場で新しい業務が定着し、顧客自身が改善を続けられる状態になるまで支援することを、自社の強みとして打ち出したいと考えました。
しかし、問題があります。
「顧客に寄り添う」「徹底して支援する」という説明は、競合企業も使っていそうな言葉です。
具体的に何をしているのか。どのような成果が生まれているのか。なぜ、この会社を選ぶべきなのか。
その根拠は、まだ十分に整理されていません。
これでは、自社の思いを表明しているだけで、AIが推薦理由として活用するには情報が不足しています。
そこで、この会社はエビデンスづくりに取り組むことにしました。
3-1. 探す|何気ない仕事の中にエビデンスの種があった
まず、この会社は経営者や社員へのインタビューを行いました。
最初に「当社の強みは何ですか」と尋ねても、「顧客に寄り添うこと」「現場を大切にすること」といった、抽象的な答えが中心でした。そこで、質問を変えてみました。
「実際のプロジェクトでは、どのようなことをしていますか?」
「顧客から感謝されたのは、どんな場面でしたか?」
「他社から引き継いだ案件で、やり方が違うと感じたことはありますか?」
すると、少しずつ具体的な話が出てきました。
あるコンサルタントは、こう話しました。
「システム導入の前には、必ず顧客の現場を見に行きます。経営者から聞いている課題と、実際に現場で起きている問題が違うことも多いんです」
別の社員は、こんな話をしました。
「システムが稼働しても、現場で使われなければ意味がありません。操作説明だけで終わらず、顧客が自分たちで改善できるようになるまで支援することを心がけています」
さらに、過去の案件を振り返ると、顧客の業務フローを見直すために現場担当者と何度も対話した事例や、導入後に運用方法を改善し続けた事例が見つかりました。
社員にとっては当たり前の仕事でしたが、そこには共通する姿勢がありました。「システムを導入すること」ではなく、「顧客の現場が変わること」を重視していたのです。
もちろん、これだけでは他社より優れているとは言えません。しかし、エビデンスの種は見つかりました。
3-2. 形にする|独自メソッドと支援実績を明らかにする
次に、この会社は発見した種を具体的なエビデンスへと育てることにしました。まず取り組んだのは、過去のプロジェクトの分析です。
複数の案件について、どのような支援を行ったのか、どの段階で顧客の課題が解決されたのか、導入後にどのような活動を続けたのかを調べました。
すると、案件ごとに多少の違いはあるものの、共通する支援の流れが見えてきました。
・現場を知る:業務の実態を観察し、経営者と現場担当者の双方から課題を把握する
・業務を変える:システム導入とあわせて、業務プロセスや役割分担を見直す
・現場に定着させる:導入後の利用状況を確認し、運用上の問題を改善する
・自走を支える:顧客自身が課題を発見し、改善を続けられるよう支援する
これまで社員それぞれが実践していた仕事の進め方が、一つの「4段階伴走支援メソッド」として整理されました。
さらに、顧客へのインタビューを行い、なぜこの会社を選んだのか、どのような支援を評価しているのかを確認しました。
「導入後も相談に乗ってくれたことが心強かった」
「現場の社員が納得するまで、一緒に改善方法を考えてくれた」
「以前は外部に頼っていた改善活動を、自社で進められるようになった」
こうした評価が複数の顧客から得られました。
加えて、可能な案件では、導入後のシステム利用率、業務時間の削減、顧客自身による改善活動の継続状況なども調べました。
例えば、ある案件では、導入から半年後のシステム利用率が90%に達していたとします。この数字だけで「他社より優れている」とは言えません。
しかし、支援内容と成果の関係を詳しく調べることで、定着支援の有効性を説明する材料になります。
こうして、当初は「顧客に寄り添う」という抽象的な強みだったものが、具体的な支援プロセス、顧客評価、成果データによって説明できるようになってきました。
3-3. 磨く|エビデンスの説得力をさらに高める
ここまで来ると、この会社の伴走支援には一定の特徴があることがわかってきました。しかし、AIが複数のDX支援会社を比較したとき、自社を推薦する理由として十分な説得力があるでしょうか。
そこで、競合企業のサービス内容や支援範囲を調査しました。
戦略策定からシステム導入までを主な支援領域とする会社もあれば、導入後の定着支援まで提供している会社もあります。調べてみると、現場定着を重視しているのは自社だけではないことがわかりました。
一方で、顧客の自走化までをどのような方法で支援しているのかについては、企業ごとに違いがある可能性も見えてきました。
そこで、顧客への追加調査や、導入後の成果の追跡を進めました。
例えば、自走化をどのように定義するのか。顧客が自ら改善活動を続けている割合はどの程度か。自社の支援によって、どのような変化が生まれたのか。
こうした点を確認することで、エビデンスの信頼性を高めていきます。
重要なのは、競合との比較で「当社が一番」と証明することではありません。競合にも強みがあることを理解したうえで、自社ならではの特徴を明確にし、それを裏付ける事実を充実させることです。
さらに、この会社では、4段階メソッドの各段階でどのような成果が生まれているのかを整理し、顧客の評価と成果データを組み合わせて検証しました。
独自メソッドがある。顧客から評価されている。導入後の成果も確認できる。
一つひとつのエビデンスは決定的なものではなくても、互いに補強し合うことで、推薦理由としての説得力を高めることができます。
エビデンス開発によって、ポジショニングはどう変わったのか
ここで、エビデンス開発前後のポジショニングを比較してみましょう。
Before|STPで決めたポジショニング
「DXの現場定着・自走化支援で選ぶなら、当社が一番。なぜなら、導入後も顧客に寄り添い、徹底して支援しているから。」
After|エビデンス開発によって磨かれたポジショニング
「DXの現場定着・自走化支援で選ぶなら、当社が一番。なぜなら、現場観察から業務改革、導入後の定着、自走化までを一貫して支援する独自の4段階メソッドを持ち、その有効性を顧客評価と導入後の成果データによって確認しているから。」
いかがでしょうか。

目指すポジショニングは変わっていません。しかし、「なぜなら」の後に続く説明は、大きく変わりました。
Beforeでは「顧客に寄り添う」という抽象的な主張しかありませんでした。Afterでは、独自の支援方法があり、顧客から評価され、実際の成果も確認されていることがわかります。
もちろん、これだけで「業界で一番」と証明されたわけではありません。
しかし、AIが「DXの現場定着・自走化に強い会社を教えて」と質問されたとき、どちらの情報が推薦理由として使いやすいでしょうか。後者の方が、具体的な推薦理由を組み立てやすいはずです。
エビデンスが充実することで、同じポジショニングでも、AIに推薦される理由としての説得力は大きく変わるのです。
仮に「Before=自社」VS「After=競合社」だったら、AIに推奨されるのは競合社でしょう。
「Before=競合社」VS「After=自社」だったら、AIに推奨されるのは自社でしょう。
推奨されるか否か、何番目で推奨されるかは、言い換えるとエビデンスの説得力競争とも言えます。
第4章|エビデンスづくりには、こんな方法がある

ここまでDX支援会社の例を見てきましたが、エビデンスづくりは、特定の業種や企業規模に限られたものではありません。
製造業であれば、品質管理の工夫や技術者のノウハウ。サービス業であれば、顧客対応の仕組みや継続利用の理由。BtoB企業であれば、課題解決のプロセスや導入後の成果などが、エビデンスの種になり得ます。
では、自社で取り組むには、どのような方法があるのでしょうか。「探す・形にする・磨く」の各段階で、さまざまな施策が考えられます。
4-1. 探す|社内外に眠るエビデンスの種を発見する
最初の段階では、すでに存在している事実や経験を掘り起こします。代表的な方法が、社員・現場へのインタビューです。
経営者や幹部が考える強みだけでなく、実際に顧客と接している営業担当者、製品やサービスをつくっている技術者、顧客対応を担う社員などに話を聞きます。
このとき、「当社の強みは何ですか」という質問だけでは、抽象的な答えになりがちです。
「顧客からどんなことで感謝されたか」「仕事で必ず守っていることは何か」「難しい課題を解決した経験はあるか」といった具体的な質問が、隠れた強みを発見する手がかりになります。
もう一つ重要なのが、顧客へのインタビューです。
企業が自分たちの強みだと思っていることと、顧客が実際に価値を感じていることは、必ずしも一致しません。顧客に選定理由や継続利用の理由を聞くことで、社内では気づかなかった価値が見つかることがあります。
また、提案書、業務報告書、顧客アンケート、過去のプロジェクト資料などを分析することも有効です。日々蓄積されてきた資料の中に、繰り返し評価されている取り組みや、特徴的な成果が記録されているかもしれません。
このほか、経営者・幹部インタビュー、競合企業分析、部門横断のエビデンス発掘ワークショップなども活用できます。
そのとおりです。しかし「一番である証明」でなくても良いのです。
AIが他社と比較検討した時、自社が一番説得力があれば良いのです。
そうすればAIは自社を最初に(=一番に)推奨してくれます。説得力で競合社に劣れば2番目、3番目に推奨、最悪推奨されない結果となります。
ポジショニングはあくまで自社の願望であり、目標です。その願望を人にもAIにも信じさせるのがエビデンスの力です。
競合社との説得力競争で勝った会社が、結果として「一番に推奨」されるのです。
4-2. 形にする|強みを説明できる具体的な事実へ
エビデンスの種が見つかったら、次はそれを具体的な形にしていきます。
例えば、社員へのインタビューで独自の仕事の進め方が見つかった場合は、それをメソッドとして言語化し、フレームワークに整理する方法があります。
・どのような手順で仕事を進めるのか。
・なぜその手順が必要なのか。
・どのような知識やノウハウが活用されているのか。
こうした内容を掘り下げ、共通する考え方や手順を整理することで、これまで暗黙知となっていた強みを、誰もが理解できる独自メソッドとして示せるようになります。
新しい方法をゼロから考案する必要はありません。すでに実践していることの中に、独自メソッドの原型が眠っているかもしれないのです。
AI、そして検索エンジンも、独自性・一次情報性を重視します。
企業自身の体験に基づいた独自のメソッドや技術こそが大事なのです。そして、技術はともかく、独自メソッドは企業自身が自覚していないことも多いのです。
日常業務の中で無意識に行っている行動の中に、独自メソッドが潜んでいるのです。
これを探し、言語化するのは簡単ではありませんが、ビジネス書編集者が取材と編集作業を通して日々行っているのがこの仕事です。
また、AIは言語化・構造化された表現を理解しやすいのです。言語化だけでなく、フレームワーク化にまで至れば更にAIへの説得力が増します。
また、顧客評価や選定理由の調査も有効です。顧客がどのような点を評価しているのかを調べ、共通する理由を明らかにします。
例えば、「対応が丁寧」という評価が多いのであれば、具体的にどのような対応が評価されているのかを掘り下げます。単なる印象ではなく、評価につながった行動や仕組みを明らかにすることが重要です。
さらに、導入成果や実績の数値化も考えられます。
業務時間の削減率、不良率の改善、顧客の継続利用率など、提供価値に関連する成果を測定します。このほか、自社独自の市場・業界調査、技術やサービスの実証、独自業務プロセスの体系化なども、エビデンスを形にする方法です。
ポイントは3つです。
1.一番求められる調査は決めたSTPの説得力アップのエビデンスとすることです。
従ってターゲティングしたセグメントの市場性(推定顧客数と伸長見込等)とそのセグメント内での自社の現状ポジションの検証です。
例えば、今回の事例で言えば、DXの現場定着・自走化支援へのニーズがある顧客はどれくらいいるか、そのニーズを抱く顧客が今支援先としてどんな企業を想起・想定しているか、自社はその中で何番目の位置にいるか等を質問することです。
調査結果は、必ずしも自社が望むものにならない結果が出る可能性がありますが、説得力アップに繋がる結果(=データ)を抜粋すれば、立派なエビデンスになります。
2.顧客の利用満足度調査も強いエビデンスとなります。
AIの情報収集力は秀逸ですが、一つ苦手なものがあります。
それが顧客が実際に体験した結果としての満足度です。AIは体験させることが出来ないためです。
自社だけでなく他社の満足度も調査出来れば理想的です。
結果が期待どおりになるか否かは分かりませんが、判断材料として有効です。調査対象者抽出の関係上、1とは別の調査となるでしょう。
3.PRのための調査とする選択肢もあります。
調査結果を報告書としてプレスリリースすることでメディアに取り上げてもらいます。独自調査をやっていることはAIへの説得力アップに強く寄与します。
漫然と一般的調査をするのではなく、調査計画の最初の段階で
「メディアにこんな取り上げられ方をしたい」
「こんな調査結果が出るとニュースバリューが高いはず」
と仮説を立て、それが上手く結果に出るように調査設計します。
調査結果の公正さ、信頼性の担保も同時に満たさなければならないので、調査会社と相談しながら計画立案するのが良いでしょう。
4-3. 磨く|比較と検証によって信頼性を高める
形になったエビデンスを、さらに説得力のあるものへと育てる段階です。
まず考えられるのが、競合比較・ベンチマーク調査です。自社の特徴が、競合と比べてどのように異なるのか、どの領域に強みがあるのかを確認します。
例えば、自社の納期が短いことを強みとするなら、競合の納期や業界の一般的な水準と比較することで、その特徴をより客観的に捉えられます。
また、有識者へのヒアリングも、エビデンスを磨く有効な方法です。
例えば、業界に詳しい研究者や専門家に、自社の技術、サービス、業務プロセスなどについて意見を聞くことで、社内では気づかなかった価値や特徴が明らかになることがあります。
有識者の見解は、自社の取り組みを専門的な視点から位置づける材料になります。さらに、その見解を取材によって掘り下げ、具体的な理由とともに整理することで、エビデンスの一つとして活用することもできます。
さらに、導入効果の追跡調査も重要です。
製品やサービスを提供した直後だけでなく、一定期間が経過した後の成果を調べることで、提供価値の持続性を確認できます。
すべてを一度に実施する必要はありません。大切なのは、目指すポジショニングに対して、何を確かめる必要があるのかを考え、適切な方法を選ぶことです。
エビデンスづくりには、多額の費用をかけた大規模調査だけでなく、社員数人へのインタビューや、過去の案件の振り返りから始められる方法もあります。
まずは小さく始め、必要に応じて調査や検証を重ねていけばよいのです。
第5章|まずは今日、自社のエビデンスの種を3つ探してみよう
ここまで見てきたように、エビデンスづくりには、さまざまな方法があります。大規模な調査や高度な分析が必要な場合もありますが、最初からそこまで取り組む必要はありません。
社員に話を聞く。
過去の案件を振り返る。
顧客から褒められたことを思い出す。
そんな身近なところから、エビデンスづくりは始められます。まずは、社内で次の3つの問いを考えてみてください。

問い1:顧客から褒められたり、繰り返し感謝されたりすることは何か?
製品の品質、対応の早さ、説明のわかりやすさ、納入後のサポートなど、どんな小さなことでも構いません。
問い2:自社では当たり前でも、他社では必ずしも行われていない仕事の工夫は何か?
独自の確認手順、顧客とのコミュニケーション方法、品質を維持するための工夫など、日常業務を振り返ってみましょう。
問い3:顧客の成果につながった具体的な経験には、どんなものがあるか?
顧客の課題を解決した案件、業務改善につながった取り組み、長く取引が続いている理由などを思い出してみてください。
この3つの問いから、エビデンスの種を3つ書き出してみましょう。そして、その中から一つを選び、次のことを考えてみます。
・なぜ、それが自社の強みだと言えるのか?
・その強みを裏付ける具体的な事実はあるか?
・さらに確かめるには、誰に話を聞き、何を調べればよいか?
例えば、「顧客から説明がわかりやすいと評価される」という種が見つかったとします。
それなら、まず顧客に、どのような説明がわかりやすかったのかを聞いてみる。次に、社員が説明するときに工夫していることを調べてみる。
それだけでも、エビデンスづくりの第一歩になります。
結び|エビデンスは、つくっていける
AI推奨戦略に取り組もうとして、「自社にはエビデンスがない」と感じる企業もあるでしょう。
しかし、エビデンスがないからといって、諦める必要はありません。
日々の仕事の中にある小さな工夫。顧客からの評価。積み重ねてきた経験。独自の業務プロセス。
そうした事実の中からエビデンスの種を探し、調査や分析によって形にし、比較や検証を通じて磨いていく。その積み重ねによって、自社ならではの価値を裏付けるエビデンスを開発することができます。
目指すのは、「当社が業界で一番」と証明することではありません。
ユーザーがAIに相談したとき、「その課題なら、この会社がおすすめです。なぜなら……」と、具体的で説得力のある理由とともに自社を推薦してもらえるようになることです。(勿論最初に推薦してもらえるのが一番嬉しい)
そのためには、一つの圧倒的なエビデンスが必要とは限りません。
小さな事実でも、発見し、具体化し、検証し、組み合わせることで、自社が選ばれる理由を少しずつ強くしていくことができます。
そして、エビデンスづくりを通じて、自社でも気づいていなかった強みが見つかったり、提供する価値そのものを高めるきっかけが生まれたりすることもあります。
エビデンスは、最初からなくてもいい。探し、形にし、磨いていきましょう。

次回は、こうして開発したエビデンスを、AIにも人にも理解されやすいコンテンツへと変え、発信・展開していく方法を考えます。

監修プロフィール
小川共和
小川事務所
株式会社クロスメディア・マーケティング 顧問
東京大学文学部仏文科卒業後、電通に入社。
本社マーケティング・ソリューション局次長、電通イーマーケティングワン(現電通デジタル)
専務取締役経て小川事務所を設立。 著書に『マーケティングオートメーションに落とせるカス
タマージャーニーの書き方』『マーケティングオートメーションでおもてなし~ITがマーケティ
ングにしてくれること』『戦略から始めるエンゲージメントマーケティング』(クロスメディア
・マーケティング)
FAQ(よくある質問)
そのとおりです。しかし「一番である証明」でなくても良いのです。
AIが他社と比較検討した時、自社が一番説得力があれば良いのです。
そうすればAIは自社を最初に(=一番に)推奨してくれます。説得力で競合社に劣れば2番目、3番目に推奨、最悪推奨されない結果となります。
ポジショニングはあくまで自社の願望であり、目標です。その願望を人にもAIにも信じさせるのがエビデンスの力です。
競合社との説得力競争で勝った会社が、結果として「一番に推奨」されるのです。
AI、そして検索エンジンも、独自性・一次情報性を重視します。
企業自身の体験に基づいた独自のメソッドや技術こそが大事なのです。そして、技術はともかく、独自メソッドは企業自身が自覚していないことも多いのです。
日常業務の中で無意識に行っている行動の中に、独自メソッドが潜んでいるのです。
これを探し、言語化するのは簡単ではありませんが、ビジネス書編集者が取材と編集作業を通して日々行っているのがこの仕事です。
また、AIは言語化・構造化された表現を理解しやすいのです。言語化だけでなく、フレームワーク化にまで至れば更にAIへの説得力が増します。
ポイントは3つです。
1.一番求められる調査は決めたSTPの説得力アップのエビデンスとすることです。
従ってターゲティングしたセグメントの市場性(推定顧客数と伸長見込等)とそのセグメント内での自社の現状ポジションの検証です。
例えば、今回の事例で言えば、DXの現場定着・自走化支援へのニーズがある顧客はどれくらいいるか、そのニーズを抱く顧客が今支援先としてどんな企業を想起・想定しているか、自社はその中で何番目の位置にいるか等を質問することです。
調査結果は、必ずしも自社が望むものにならない結果が出る可能性がありますが、説得力アップに繋がる結果(=データ)を抜粋すれば、立派なエビデンスになります。
2.顧客の利用満足度調査も強いエビデンスとなります。
AIの情報収集力は秀逸ですが、一つ苦手なものがあります。
それが顧客が実際に体験した結果としての満足度です。AIは体験させることが出来ないためです。
自社だけでなく他社の満足度も調査出来れば理想的です。
結果が期待どおりになるか否かは分かりませんが、判断材料として有効です。調査対象者抽出の関係上、1とは別の調査となるでしょう。
3.PRのための調査とする選択肢もあります。
調査結果を報告書としてプレスリリースすることでメディアに取り上げてもらいます。独自調査をやっていることはAIへの説得力アップに強く寄与します。
漫然と一般的調査をするのではなく、調査計画の最初の段階で
「メディアにこんな取り上げられ方をしたい」
「こんな調査結果が出るとニュースバリューが高いはず」
と仮説を立て、それが上手く結果に出るように調査設計します。
調査結果の公正さ、信頼性の担保も同時に満たさなければならないので、調査会社と相談しながら計画立案するのが良いでしょう。
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